サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の近代性

本年もよろしくお願いいたします。

 

仕事は少しずつはじめようと思います。

今年最初のブログは好きな建築の話題を。

 

取り上げるのはパラーディオのサン・ジョルジョ・マッジョーレ教会(ベネチア)のファサードです。

唐突ですが、私はこの17世紀初頭の近世建築に「近代」を感じます。

 

ルネサンスでは古代神殿建築の正面の形がキリスト教会に適用されました。

サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会では、縦横比の違う2つの神殿ファサードが重ねられているのがわかります。これは、内部における身廊、側廊の高さの違いをどうやって建物正面に表現するかという問題に対する、とてもスマートな解答になっています。

 

マントヴァに建つアルベルティのサン・タンドレア教会は神殿利用の早い例です。サン・タンドレアには座りの悪さを感じていました。

ここでは神殿の形は側廊の高さにあわせてあり、身廊は神殿の頂点より高い位置までそびえています。その身廊の端部がファサードにも顔を見せています。神殿の上にトンネルの入口のような形がぴょこんと乗っている不思議な立面構成。これが長年の違和感だったと最近やっと気づきました( 背の高い身廊の存在を変に隠蔽しないところにアルベルティの真面目さが出ているとも思います)。

サン・タンドレアとサン・ジョルジョ・マッジョーレ。ならべて見ると二人の建築家ともが、内部空間と外観の関係という普遍の課題に何らかの答えを出そうとしていたことがわかり、ほほえましくも思えてしまいます。

 

ルネサンス様式の進化と見るべきでしょうか、アルベルテイに比べるとパラーディオの方法のなんと洗練されていることか。二重のファサードはまさにレイヤーです。重く密な石を積み上げた建築でこれほどの透明感と複雑性をもつ「表層」が他にあるでしょうか。

ファサードをよく見ると設計の工夫を見ることができます。少し前面に出ている身廊用の高いファサードは立体感のある円柱で支えられています。逆に、奥まった低いファサードは出っ張りの少ない角柱で平面的な印象です。二つのファサードを区別して前後関係をはっきりさせようとしているようです。角柱と円柱では柱間距離をわずかに違えて角柱が円柱に隠れないようにしているのも同じ理由と思います。

 

パラーディオによる同じくベネチアに建つイル・レデントーレ教会も二重ファサードの建築です。比べてみると面白いです。重心が低いプロポーションはより安定感があります。サン・ジョルジョ・マッジョーレ以上に整ったファサードです。本当にきれいな立面です。しかし違う部分もあります。低いファサードの破風の三角形が中央部で消失している点です。透けるものが重なっているようなレイヤー的な印象はサン・ジョルジョ・マッジョーレの方が勝っています。

 

パラーディオは、内部空間と外観の整合という(わりと単純な)問題を、「表層の奥行」とでも言うべき矛盾をはらむ抽象的なテーマにシフトさせているかのようです。そこに私は、近世を突き抜ける感覚を覚えてしまうのです。

 

普通の家 完成

 

まだホームページに載せられていない設計事例がいくつかあります。

またひとつ、「普通の家」というプロジェクト名で進めてきた小さなRC2階建て住宅が完成しました。

今日は階段見上げの写真を1枚。

なぜ「普通」か、どこかでご説明したいと思います。

 

 

 

近況

ここ何ヶ月か大変業務が忙しくまったく更新ができませんでした。

その間にいくつかの建築が完成し、新しいプロジェクトが始まっています。私たちの中では少し規模の大きめな鉄骨建築も複数設計が進行中です。省エネ法の改正やウッドショックなど建築を取り巻く状況にもいろいろ動きがありますが、落ち着いて仕事を進めたいと思っています。

 

 

雨水デザイナー

今日、8月から受講していた雨水デザイナー・雨水アドバイザー養成講座「雨水塾(あまみずじゅく)」の最後の授業がありました。

考査(雨水利用建築の即日設計)もなんとか合格をいただき、年明けには雨水デザイナーの資格がもらえそうです。

これまで水についての危機感をほとんど持ってなかったのですが、この講座を通じてそれを自分の問題としてとらえることができました。

すでに大規模な計画や公共の計画では、雨水の活用や処理についての制度が確立されつつあります。しかし私たちが携わっている住宅規模の建築ではまだまだ水の問題に対する意識は決して高くはないと感じます。

今後、「建築における水」を積極的に主題の一つとして考えていくつもりです。

雨水利用に関心のある方、ぜひご相談下さい。

 

アルヴァロ・シザのスケッチ

 

ドイツ文化相が新型コロナウイルスの芸術分野への影響に対する支援にあたって「アートは人類の生命維持装置」と表現したことを、経済学者浜矩子さんが紹介しています。いい言葉を紹介していると思いました。

建築はアートとは別物と私は考えますが、アート同様心の問題にかかわり、文字通り生命を機能的に下支えする装置でもあります。

世界は大変なところに来ていますが、今は警戒をしながらも落ち着いて興味に従いシンプルにものを考えるのがいいように思います。そこで今日は、心の動きと形の関係を考えさせる、建築家アルヴァロ・シザにおけるスケッチの意味について少し書いてみたいと思います。

ポルトガル人建築家アルヴァロ・シザの建築の特徴は、20世紀的な工法やデザインボキャブラリーしか使わないのに、非常に現代的な空間・造形を生みだしている点にあります。一見単純な白い四角い箱なのによく見ていくと不思議な魅力がある建築です。20世紀終盤ポストモダンの時代、多くの建築家がモダンデザインを切り捨てようとしたときに、そこをさらに掘り下げるという逆方向の動きをした稀有な存在です。私はこの、見慣れたものに可能性を探るという視点がとても好きです。

シザが建築の検討に大量のスケッチを描くことはよく知られてきたことです。私もそのスケッチに魅せられ一時期彼の作品集を何冊も読みこんだことがあります。そこで見えてきたことは、同じ空間を少しづつ違えて納得いくまで何度もスケッチしている様子です。まるで生きることとスケッチすることが同化しているようです。私も彼にならって沢山スケッチを描きながら空間を構想するようになりました。

彼の空間には身体的なものを強く感じます。何らかの抽象概念や手法を介さず、構想と実体が直接結びついている感覚を受けます。これはまぎれもなく、脳に直結する手によるスケッチをしつこく繰り返してつくり出されるものです。そこには事物の丹念な観察だけがあるかのようで、人と違う新しいもの打ち出そうという欲望はあまり感じられません。描くことは見ること、よく聞くこの言葉は真実でありそうです。

一方で、シザのデザインには、真面目すぎる目でみると「??」と思える、どこかズレたような新しい感覚が必ず一つ二つ見られます。これも理性や整合性を重んじたモダンデザインを批評的に観察しつくした成果のもう一つの現れのような気がします。

彼の建築には近代の建築家に対する敬意も見られます。特にアドルフ・ロース、アルヴァ・アアルトへのリスペクトは顕著です。建築デザインの世界で今や忘れられた、良きものは継承する、という良き習慣すらすくいだそうとしているのかもしれません。

いたずらに新しいものに飛びつくのではなく、眼前にあるものの中に見えにくい良さを、スケッチを通じて見つけては拡張していく。地道な作業です。その積み重ねがやがて飛躍をもたらすこと、この構図は一つの発見・発明といえます。86歳のシザが長年培ってきたその方法はいまだ大きな可能性があるように思えます。彼の、そして世界の建築家の無事を願いたいものです。

 

 

 

リフォーム設計の難しさ

いま私たちの事務所ではリフォームも多く手がけています。(特に鉄骨建物のリフォームが多いです)

新築にはない、リフォームの仕事のもっとも難しいところは、徐々に明らかになる既存建物の状況に都度反応し設計をうまく修正できるか、という点だと思っています。

ほとんどのケースでは、内部解体工事は改修工事と一体の契約になり工事は連続するため、内部解体の前に設計を行うことになります。設計前には実測など状況調査を行いますが、いざ解体をして工事に入ると新たに分かることがたくさん出てきます。それらの新発見に対して、意匠、機能、コスト面で破綻がおきないように微修正を重ねるのがリフォームの現場では重要な作業です。デザインのアドリブとでもいいましょうか。自ずと現場に行く回数も増えます。

また、建物を理解するための時間も必要です。私たちは出来るだけ多くの写真を撮り、何度も見返して部分ごとに実測した寸法と全体寸法の整合を取ったりします。伏見稲荷駅のリニューアル設計のときも、これも大きなリフォームみたいなものでしたから、また京都という遠隔地でもあったので、相当な時間を写真分析に費やしました。

調査分析・現況理解といった作業は新築の設計にはないものです。

構想する、デザインする、というプラスの行為とは違う非常に地道なことですが、そこに成功するリフォームの鍵があるのです。

 

 

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クリンタイル

 

クリンタイルという床材をご存知でしょうか?

名前は知らなくても何度も目にしたことはあるはずです。駅や歩道橋の床に使われる滑り止めゴムを埋め込んだコンクリート平板です。

何回か住宅の外階段で使用しました。

必要十分な機能と形態、変に高価でない。好みの材料です。

 

 

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