プロポーションという言葉は、人の体形を表すときに使われることが多いですが、建築の世界でもよく使われる言葉です。
建築の場合は縦横比とほぼ同義語で、外観立面の幅と高さの比を表すときなどに使います。古代ギリシアにおいてもプロポーションは神殿建築の美的調和を論ずる際に重要な要素でありましたし、ル・コルビュジェも比例を大事にしていました。
大事なものであるのは何となくわかるのですが、その有用性を説明しようとしてもなかなかうまく言えない、どの比例がもっとも良いものなのかがはっきりわからない(黄金比などありますが)、という曖昧さがある概念だと思っていました。
その曖昧さが払拭できたわけではないのですが、あるときこんなことを思いました。顔がわからない程度に遠くにいる人を見てその人が誰なのかを判断するとき、体の各部寸法の比を記憶の中の誰かと照合しているのではないかと言うことです。そう意識してみると、もののプロポーションは強く記憶に残るものであり、それだけを頼りにしてもかなりの精度で、しかも一瞥だけでも、ものの差異を見分けられることに気づきます。
とすると、建築におけるプロポーションも、最初に見たときの瞬間的な印象を左右するものであり、だからこそ古代から重要視されてきた、と言えそうです。一方で、建築は大きいので全体を味わうのに時間がかかります。第一印象だけでは良し悪しがわかりません。細部の造形はゆっくりと感じるものでしょう。
古代ギリシアからある建築の「オーダー」とは比例と装飾(=ディテール)が組み合わさった設計システムですが、これは「ぱっと見の印象もよく、近づいて細部を見てまわってもすばらしい建築」をつくるための、ツボをおさえた極意だったと言えるのかも知れません。