都心の家
東京都 木造3階建て 90㎡
東京最都心部の江戸情緒を感じるエリア、間口約4mで奥行きのある敷地に建つ木造3階建ての住宅です。防火地域であるため耐火建築物として建てられています。敷地の形から建物の平面形も自ずと細長くなります。
細長い建物は短辺方向の耐力要素の配置が難しいのですが、重量のある耐火木造はさらにそれを困難にします。部厚い石膏ボードを何枚も張り重ねて耐火性能を持たせるため、通常の木造住宅より重たくなるのです。
道路を除く3方は隣家が接近しており、採光や通風に配慮が必要な状況でもあります。
この、建物が密集する防火地域の細長い土地、という条件は、都心に見られる典型的でありかつ設計が難しいケースの一つです。
一方この地域で享受できる利便性や街の活気といったものは、設計や建設の難しさを超越する価値があります。
この都心特有の敷地で、普及しつつある耐火木造を使って快適に暮らせる住宅の普遍性のある形式を見つけたいと思いました。
工夫したのは通常の木造住宅より多く必要になる耐力壁の扱いです。ここでは建物中央部分に必要な壁を、長手の両外壁に接しないよう独立壁として配置しました。この壁は当然ある割合で視線を遮ってしまうのですが、両脇を長い壁が連続し、また人も通れるため、その先の空間への期待感を生むより奥行が感じられる空間になりました。
耐火木造は、耐火性能のほかにもメリットがありました。
ボードの厚さは内外合計で4重、80㎜以上になります。この驚異的な量のボードが遮音性・気密性を高めます。またこれだけ厚さがあるとボードといえども断熱材として寄与します。
屋上のトップライトからの光を、3階床を貫き2階まで届けるライトウェルを建物中央に設けています。密集地での採光の工夫です。
この住宅では屋上に降った雨水の利用を本格的におこなっています。1500リットルの貯水タンクを基礎下に埋め、屋上雨水の竪樋を接続しています。蓄えた水はトイレや外部散水に使用します。
住宅向けのパッケージ化された雨水利用の設備システムは売っていません。雨水が涸れた時のために自動で上水を供給するしくみやろ過器も組み入れた、トータルな設備システムを独自につくりました。利用イメージの設定、機器の選定、必要スペースの確保、料金制度とのすり合わせ、等を探りながらのシステム構築作業はなかなか難しいものでした。
この住宅でも、断熱性能は私たち自身が快適さを実感しているスペックを確保しています。