ミースのトロント・ドミニオンセンター

建築家ミース・ファン・デル・ローエによる、カナダトロントの「ドミニオンセンター」。今から約50年前の1969年に完成しています。トロントの中心部にあります。

彼の代表作であるニューヨークのシーグラム・ビルは1958年に完成しています。ドミニオン・センターはその10年後くらいの作品になります。規模は大きいですが、彼の作品のなかではそれほど知られていないものです。

シーグラム・ビルは38階建てのシンボリックなモノリスであるのに対して、こちらは数棟の建物による群造形です。トロント・ドミニオンの各棟の外観はシーグラム・ビルにとても似ています。

ミースによる、複数の建物がつくるコンポジションといえばレイクショア・ドライブ・アパートメント(1951年)やイリノイ工科大学キャンパス(1958年)があり、これらのプロジェクトとの関連を想像するのは面白いです。

ストリートビューで見ると、低層棟の姿を鮮明にとらえることができます。未だに当時の新鮮さが失われていないことがわかります。例えば入口ドアサッシ見付けの細さなど現物を見てみたいと思わせます。アメリカ時代のミース作品は、ドイツ時代に比べると建築の外形が単純です。多くの場合平面の形は長方形です。ディテール、素材(特に石材)の使用法はシンプルですがコストが掛けられています。それらは近代のガラス張り建築の先駆けです。しかしぱっと見だけ似ている後続のガラス張り建築とは全くの別物です。

ミースという建築家はいろいろな見方がされます。概念的なとらえ方もされます。ユニバーサルスペースというコンセプトは現代建築にも大きく影響しています。しかし私はミースの建築の、物質性をともなった崇高さに興味を覚えます。抽象概念ありきではなく、職人的なものを極めた結果新しい概念が生まれたという順番があると思うのです。

精緻に造られたトロント・ドミニオンの無柱空間の低層棟。平屋というプロポーションでもあるからか、この時彼は新しい神殿をつくろうとしていたかのようです。全面に照明がある格子状の天井がさらにそう思わせます。

 

 

 

 

 

 

鉄骨の材料価格

けんせつPLAZAより引用

鉄骨造建築の価格を左右するH形鋼などの鉄骨材の価格は、昨年大きく上昇しました。半年で30%の高騰が見て取れます。これほどの価格上昇はこれまで経験しなかったことです。新型コロナウィルス蔓延に関連した物流の混乱や、停滞から回復した国に一気に材料が持っていかれたことなどが原因と聞きます。

グラフのラインは2月時点で下降が期待される形を示しています。しかし国際情勢の急激な不安定化でこの先も予測が難しい状況です。東京の片隅で行うささやかな建設行為も世界各地の出来事に翻弄されます。資本主義の暴走の果てに行き着いた、結びつきが強すぎる世界。なんともやりきれない気持ちです。