アルヴァロ・シザのスケッチ

 

ドイツ文化相が新型コロナウイルスの芸術分野への影響に対する支援にあたって「アートは人類の生命維持装置」と表現したことを、経済学者浜矩子さんが紹介しています。いい言葉を紹介していると思いました。

建築はアートとは別物と私は考えますが、アート同様心の問題にかかわり、文字通り生命を機能的に下支えする装置でもあります。

世界は大変なところに来ていますが、今は警戒をしながらも落ち着いて興味に従いシンプルにものを考えるのがいいように思います。そこで今日は、心の動きと形の関係を考えさせる、建築家アルヴァロ・シザにおけるスケッチの意味について少し書いてみたいと思います。

ポルトガル人建築家アルヴァロ・シザの建築の特徴は、20世紀的な工法やデザインボキャブラリーしか使わないのに、非常に現代的な空間・造形を生みだしている点にあります。一見単純な白い四角い箱なのによく見ていくと不思議な魅力がある建築です。20世紀終盤ポストモダンの時代、多くの建築家がモダンデザインを切り捨てようとしたときに、そこをさらに掘り下げるという逆方向の動きをした稀有な存在です。私はこの、見慣れたものに可能性を探るという視点がとても好きです。

シザが建築の検討に大量のスケッチを描くことはよく知られてきたことです。私もそのスケッチに魅せられ一時期彼の作品集を何冊も読みこんだことがあります。そこで見えてきたことは、同じ空間を少しづつ違えて納得いくまで何度もスケッチしている様子です。まるで生きることとスケッチすることが同化しているようです。私も彼にならって沢山スケッチを描きながら空間を構想するようになりました。

彼の空間には身体的なものを強く感じます。何らかの抽象概念や手法を介さず、構想と実体が直接結びついている感覚を受けます。これはまぎれもなく、脳に直結する手によるスケッチをしつこく繰り返してつくり出されるものです。そこには事物の丹念な観察だけがあるかのようで、人と違う新しいもの打ち出そうという欲望はあまり感じられません。描くことは見ること、よく聞くこの言葉は真実でありそうです。

一方で、シザのデザインには、真面目すぎる目でみると「??」と思える、どこかズレたような新しい感覚が必ず一つ二つ見られます。これも理性や整合性を重んじたモダンデザインを批評的に観察しつくした成果のもう一つの現れのような気がします。

彼の建築には近代の建築家に対する敬意も見られます。特にアドルフ・ロース、アルヴァ・アアルトへのリスペクトは顕著です。建築デザインの世界で今や忘れられた、良きものは継承する、という良き習慣すらすくいだそうとしているのかもしれません。

いたずらに新しいものに飛びつくのではなく、眼前にあるものの中に見えにくい良さを、スケッチを通じて見つけては拡張していく。地道な作業です。その積み重ねがやがて飛躍をもたらすこと、この構図は一つの発見・発明といえます。86歳のシザが長年培ってきたその方法はいまだ大きな可能性があるように思えます。彼の、そして世界の建築家の無事を願いたいものです。

 

 

 

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