書という美術

もう一昨年のことになりますが、顔真卿展を国立博物館に見に行きました。顔真卿(がんしんけい)とは紀元700年代を生きた、唐の皇帝に仕えた官僚です(だそうです)。彼の書はこの展覧会のタイトルにもあるように「王羲之を超えた名筆」とされています(だそうです)。私は書のことは素人もいいところ。王羲之も歴史の授業でのかすかな記憶。しかしアジアに固有の、実用的な書面も含む字の群れを美的なものとして扱う枠組みには非常に興味がありこの展覧会を見たいと思ったのです。

目玉の展示は「祭姪文稿(さいてつぶんこう)」。

戦乱で亡くした甥に捧げる追悼文の草稿です。感情の起伏が筆致に表れて・・・というところが鑑賞のポイントらしいのですが、私はそんな背景もつゆ知らず。単に視覚的なものとして眺めました。第一書かれている字の多くを読めません。改めて見ていろいろ知りたいことが沸き起こります。1300年前の追悼文の「草稿」が残されているって?、不思議なほど多くの印が押してあるその意味は?、草稿は鑑賞するもの?、美術と史料の境界線は?、などです。日本でも歌集や経文に、手紙または公文書的なものにも名筆とされるものがあります。確認申請書手書き派の私は、のちの世で申請書が名筆とされるようなこともありえるのか、でも押印廃止で朱いアクセントがな無くなるとしまりがないな、などとくだらない思いもめぐります。

当日は多くの人が見にきていました。書ってこんなに人気があるのかという驚きと、どれほどの人が顔真卿や王羲之を詳しく知っているのか疑問に思いました。たぶん私と同程度の知識で見にきた人も多いと思います。そういう人も呼び寄せる魅力が書にはあるのだろうと思いました。

書は西欧の絵画美術に比べれば瞬間芸的なところがある美術です。修正不可・短時間一発勝負の緊張感が書の魅力の出発点であるのは明らかです。では一発ですべての字を完璧なバランスで書けたらそれが書として最もすばらしいかといったらそうでもないですね。私は書の魅力は乱れをどう扱うか、にあるのではないかと見ています。生身の人が短時間のうちに書くもの、必ず乱れ・ゆらぎが生じます。その短時間の中で、バランスをくずしたらそれをリカバーしようとするのか、あるいはアンバランスをむしろ良しとするのか、そんな瞬間的な心の動きが見える作品に惹かれるのかも知れません。文字が示す意味内容を、美術として書を見るとき評価軸に組み込むべきかという問題がありますが、私はそれは切り離してよいと思います。

筆に触れるこの季節、ふと書にまつわる体験を思い出しました。

 

 

 

和泉四丁目プロジェクト 見積図の図渡し

鉄骨造の集合住宅である和泉四丁目プロジェクトは、これまでいろいろな役所手続きがありましたが順調に進んでいます。

先週のことですが、工事代金をお見積もりいただく建設会社3社に現地説明とともに図渡しを行いました。

1ヶ月ほどの期間で見積もっていただきます。

設計では、ヒートブリッジ対策が難しい鉄骨造で高気密工断熱を達成するために工夫を盛り込んでいます。

 

 

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和泉四丁目プロジェクト許可申請完了

和泉四丁目プロジェクトの、建築基準法第43条第2項第2号の許可申請が、月イチで開かれる杉並区建築審査会での審議を経て、無事許可を得ました!

今年の春から区とやり取りをし近隣説明を2度も行い、ようやくここまで来た、という感じです。

今は実施設計の完成に向けてコツコツと図面を作成しています。

 

 

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現場レポート 3つの現場に

3つの現場を回るためにあっちこっちに。

午前には杉並区の集合住宅プロジェクトでの「中高層条例」の近隣説明と測量の確認に。

午後は川口市のオフィスリノベーションプロジェクトの家具工事の確認に。

午後もう一つは「音のある家」。基礎工事の完了を確認に。

今日はほとんど事務所にいませんでした。

 

 

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がけ条例

去年から今年にかけて手がけた計画のいくつかは、何らかの形でいわゆる「がけ条例」が関係していました。そこで感じるのはがけ施策の矛盾です。都内の場合は東京都建築安全条例の第6条に「高さ2m以上のがけ」に隣接するときの規定があります。擁壁がある場合はその擁壁の安全性を証明しなければならない、証明できないときは高さの2倍の距離を離して建物を建てる、防護壁を建てるなどの措置が必要、といった内容のものです。安全性の証明とは、主に擁壁の工作物確認申請書・検査済証の存在を確かめることです。

擁壁というのはだいたいが高いほうの土地に入っているので、がけ下で建設行為を行う場合は、人さまが提出した確認申請の資料を調べるという気が進まない調査をすることになります。私たちが遭遇した一つのケースでは、擁壁に思われた壁が実は建築物と一体の構造体であった、というものでした。そうなると擁壁単独の確認申請はいくら探しても出てこない、ということになります。このケースのときは隣地建物所有者が竣工図を見せてくれてそのことが判明しましたが、そこにたどりつくまでにえらく苦労をしました。図面を見ることができなかったら宙ぶらりんの状態でなすすべもない、ということになっていたかも知れません。

このように、2mを超えるがけ下に建設をしようとすると、なにかと面倒なことが起こります。

隣地に古い擁壁がある場合、その所有者に擁壁の補強やつくり直しを交渉することも選択肢の一つですが、擁壁の工事費は高いので、すんなり合意されることは少ないでしょう。

がけの安全性確保は大事なことですが、安全第一を標榜するなら行政は古い擁壁の持ち主にもっと積極的に補強をはたらきかけるとか、擁壁の申請情報をもっと誰もが探しやすくする(今も情報は取れるが「奥のほうにある」といわざるをえない)とか、条例がスムースに運用され効果を発揮する工夫をするべきだと思います。

今は制度上は、がけ上敷地の所有者が擁壁を築造しても、接するがけ下土地所有者に通知する義務はありません。がけの上下で情報共有の仕組みがないのはどう見てもおかしいです。

がけ下の人は他人の所有物の状態に受身でいるしかないのが現状です。こういうことを何とか改善して特定の個人に負担が集中しないようになってほしいものです。

 

建築ストックの活用・・・建築基準法改正

6月に建築基準法の一部改正が公布されました。今回の改正、柱の一つは「既存建築ストックの活用」です。私が注目する具体的内容は、確認申請が必要な用途変更の規模が100㎡から200㎡に緩和される、という部分です。200㎡というと、ちょっとした規模の集客施設の計画ができるので、この改正により既存建築物の活用は確かに促進されると思われます。確認申請が不要になる=古い建築そのままでいい、ということではありませんが、手続きを省略できるだけでも計画の労力、コストが抑えられます。これから新築は確実に減っていきますが、建ってしまった建築は必ず老朽化・陳腐化するもの。その利活用市場をより活性化させようという産業面の意図があるのでしょう。それはともかく、こういうコンセプトがより柔軟で細やかなものに発展していくと、日本の都市の姿は歴史が重層する厚みあるものになっていくと思います。都市において、なんでもない建築だとしても、古いものと新しいものが共存する様は自然で豊かな状態ではないでしょうか。ひとまず歓迎されるべき改正です。

「1年以内の施行」なので、来年6月までには改正が実行されます。

 

 

鉄骨のリフォーム

最近は、鉄骨住宅のページ内容を充実させた影響もあり、鉄骨建築のリフォームのご相談も増えています。そこで感じることを今日は書いてみようと思います。

鉄骨の建築の特徴は、一言でいうと「強固な躯体と軽い間仕切り」という組み合わせでできている点です。なので、仕切りを取って部屋を広くする、仕切りの位置をずらす、というリフォームは比較的簡単です。鉄骨建築の間取りの可変性を感じる点です。木造建築はというと、間仕切りと構造壁が一体化している場合が多く、間取りの変更=構造の変更、になることがあるため、リフォーム設計の自由度は鉄骨より低いといえそうです。一方で鉄骨建築において、躯体をいじる工事、つまり柱・梁の位置を変える、床を抜いて吹抜けをつくる、という変更は工事も非常に大変であり、法規への適合性もよく検討しないといけません。しかし、このようなリフォームも、新耐震の建築で、検査済証がある場合は法的手続きがスムースにいくので、まだやりやすいです。旧耐震の建築をいじろうとするとコストと時間がかかるのを覚悟しないといけません。