軽量鉄骨造、始めます。(1)

このところの建築材料の高騰で、私たちもコスト的メリットのある提案が難しくなってきています。それでも4、5階建てや防火地域での計画(=木造では難しい)で相談をいただく頻度は変わらずあります。そのような方たちにどうにかしてこたえる方法がないかと考えておりました。

これまで私たちの鉄骨造は重量鉄骨のみでしたが、「軽量鉄骨造」での設計も始めようと考えています。

 

軽量鉄骨造の住宅は、いまは一部のハウスメーカー以外とり組んでいるところは少ないはずです。(メーカー以外では躯体のみを提供している会社が数社あります)その理由は、軽量鉄骨(部材の板厚6㎜以下)のみを使って躯体をつくろうとするとき、その制約を超えたメリットを得ようとすると、それなりの研究開発が必要ということだと推測しています。

私たちは板厚6㎜という区分けに意味を感じませんので、厳密な意味での軽量鉄骨造を目指すことは意図しておりませんが、取り回しの容易な部材を使用してつくる構造にいま可能性を感じています。

 

軽量鉄骨造のメリットは、

・重量鉄骨に比べ躯体費がおさえられる。

・建物の総重量が小さくなるため、基礎や杭を簡略化できコストをおさえられる。

・2階建てまでなら手運びで組み上げることができるため、狭小敷地や旗竿敷地でも建てやすい

・柱が細いため重量鉄骨のように柱型が邪魔になることがない

といったことがあります。

 

一方デメリットは、

・柱間隔4mを超えることが難しい。大空間がつくりにくい。

・基本的にブレース構造になるためプランニングや開口部の大きさに制限が出る。木造住宅と似たような設計上の制約が出るイメージ。

という点があります。間口の狭い敷地でビルトインの駐車場をつくることなど難しいところがあります。

 

 

 

 

 

ミースのトロント・ドミニオンセンター

建築家ミース・ファン・デル・ローエによる、カナダトロントの「ドミニオンセンター」。今から約50年前の1969年に完成しています。トロントの中心部にあります。

彼の代表作であるニューヨークのシーグラム・ビルは1958年に完成しています。ドミニオン・センターはその10年後くらいの作品になります。規模は大きいですが、彼の作品のなかではそれほど知られていないものです。

シーグラム・ビルは38階建てのシンボリックなモノリスであるのに対して、こちらは数棟の建物による群造形です。トロント・ドミニオンの各棟の外観はシーグラム・ビルにとても似ています。

ミースによる、複数の建物がつくるコンポジションといえばレイクショア・ドライブ・アパートメント(1951年)やイリノイ工科大学キャンパス(1958年)があり、これらのプロジェクトとの関連を想像するのは面白いです。

ストリートビューで見ると、低層棟の姿を鮮明にとらえることができます。未だに当時の新鮮さが失われていないことがわかります。例えば入口ドアサッシ見付けの細さなど現物を見てみたいと思わせます。アメリカ時代のミース作品は、ドイツ時代に比べると建築の外形が単純です。多くの場合平面の形は長方形です。ディテール、素材(特に石材)の使用法はシンプルですがコストが掛けられています。それらは近代のガラス張り建築の先駆けです。しかしぱっと見だけ似ている後続のガラス張り建築とは全くの別物です。

ミースという建築家はいろいろな見方がされます。概念的なとらえ方もされます。ユニバーサルスペースというコンセプトは現代建築にも大きく影響しています。しかし私はミースの建築の、物質性をともなった崇高さに興味を覚えます。抽象概念ありきではなく、職人的なものを極めた結果新しい概念が生まれたという順番があると思うのです。

精緻に造られたトロント・ドミニオンの無柱空間の低層棟。平屋というプロポーションでもあるからか、この時彼は新しい神殿をつくろうとしていたかのようです。全面に照明がある格子状の天井がさらにそう思わせます。

 

 

 

 

 

 

鉄骨の材料価格

けんせつPLAZAより引用

鉄骨造建築の価格を左右するH形鋼などの鉄骨材の価格は、昨年大きく上昇しました。半年で30%の高騰が見て取れます。これほどの価格上昇はこれまで経験しなかったことです。新型コロナウィルス蔓延に関連した物流の混乱や、停滞から回復した国に一気に材料が持っていかれたことなどが原因と聞きます。

グラフのラインは2月時点で下降が期待される形を示しています。しかし国際情勢の急激な不安定化でこの先も予測が難しい状況です。東京の片隅で行うささやかな建設行為も世界各地の出来事に翻弄されます。資本主義の暴走の果てに行き着いた、結びつきが強すぎる世界。なんともやりきれない気持ちです。

 

 

 

 

「panorama」建て方 その2

江東区隅田川のほとりで工事中の集合住宅「panorama」。

最上階まで組みあがりました。

5階での、まさにパノラマの写真です。

目の前に大きくカーブする隅田川を臨みます。

 

 

 

 

建築の「手続き」

 

  

建築の手続きについてです。

面白い建築がつくれれば、という思いが先行するタイプです。なので、依頼があればあまり深く考えることなく新たな種類の建築にも挑んでしまいます。そのせいか仕事を受けたあとでこんな手続きが必要なんだと驚く場面もありましたし、手続きがあまりに大変で引き受けたのを後悔したことも正直何度かあります。振り返ってみるとけっこういろんな種類の手続きを通してきました。手続き・届出の経験は豊富です。

私たちがこれまでに行ったあまり一般的ではない手続きの例として、

・建築基準法43条 第2項 第2号 (旧第43条 第1項 ただし書き)

・沿道掘削

・ガイドライン調査

・河川法第26条

・都市計画法第53条 第1項

・区画道路整備  などがあります。

「建築基準法基準法43条…」は2mの接道がとれていない土地で、一定条件を満たせば建築が許可される申請です。しかし、基本的にNGなものを特例的に認める制度ですから、審査は非常に煩雑で厳しいです。私たちが経験した事例でも、許可を得るまで長い時間と大きな労力がかかりました。忍耐強く役所と何度もやり取りをしました。これはけっこう頑張りました。

「沿道掘削」は都道、区道等に接している土地で、道路に接近して許容以上の深さを掘る際に必要な届出です。普通は施工者が届け出るものですが、着工後速やかに本体工事に入りたかったので、私たちで提出してみました。山留めの強度計算や、施工時の縁石の変位計測など、これもかなり大変な手続きでした。

他の手続きも別の機会に書いてみようと思います。

 

 

 

 

「panorama」建て方 その1

 

江東区隅田川のほとりで工事中の集合住宅「panorama」。

今日からようやく建て方です。

建て方(たてかた)というのは木造や鉄骨造の軸組みを立ち上げる作業です。軸組みは、基礎しかなかったところに早ければ1日で立ち上がるので、一気に工事が進んだように見えます。5階建てのpanoramaでは最頂部まで3日かけて組み上げていきます。